NHKが受信料徴収強化に向けたTV設置届け出の義務化に関する法制化要望を、総務省の有識者会議に提出したとの報道があり、その時代錯誤な発想に驚かされました。
その中で主な理由として述べられていたのは、料金徴収に係る訪問・点検活動の経費を削減できること、視聴者の負担も公平になることなどです。
出席の有識者からは、「一足飛びの法制化はいかがなものか」「公平負担という理屈だけでは法制化の根拠に乏しい」など、NHKの権限拡大に対して慎重な意見が出されたといいます。
菅首相からもNHK受信料引き下げ要望発言も出されており、2020年現在におけるNHK受信料問題の核心とあるべき見直し方向性について考えてみます。
受信料の義務化は今の時代に適しているのか!?
NHKが受信料徴収に躍起になっているのには理由があります。
受信料未払い世帯数は総世帯数の2割を超えていますが、特に近年若い世代を中心として受信料の未払いが増えていると言われています。これはNHKを観ない、さらに言えばテレビ自体を観ない、という人が増えているからではないかというのが想像に難くないところです。
なぜ、テレビを観ないのか。その理由は簡単です。
YouTubeをはじめとしたネット配信やネットの動画コンテンツが爆発的に存在感を増しており、地上波のメディアとしての存在感が急激な低下傾向をたどっているからに他なりません。
映像メディアが地上波に独占されていた昭和の時代であるならまだしも、情報発信の多メディア化が進んでいる2020年現在においては、公共放送そのものの存在意義も見直しを迫られる状況にあるわけです。
この状況下においてNHK受信料徴収をTV設置届けとの紐づけ義務化により強化しようという動きは、あまりにも時代錯誤であると言わざるを得ません。言ってみれば、喫煙者が減ってきた現在において税収確保のために、各家庭における灰皿の所有枚数に応じてたばこ税を徴収するようなものです。
なんでこんな役人的な上から目線の要望書が出せるのか、NHKの根強い官僚的風土を改めて感じるところです。
ネット時代の到来で公共放送が縮小している・・・
戦後復興の中で官主導での整備が必要とされ設立されてきた、公的色合いを持った事業体は幾度かの行政改革の折に、その役割見直しの必要性と「民でできることは民に委ねる」という大原則に則って民営化に舵を切られてきました。
三公社や郵政はまさにその代表例ですが、公共放送であるNHKは電波という政治がらみでの複雑な既得権益がからんでいるからなのか、抜本的な組織改革の洗礼を受けることなく度重なる行政改革の網の目をくぐって生き延びてきたわけです。
さらに言えば政治がらみだけではなく、民放キー局各社がNHK民営化によるライバル増加を嫌ってこれに反対してきたがゆえ、NHK民営化については民放メディアがこの問題に関しては援軍の役割を果たしてきたという、地上波放送の民放大手独占という戦後の放送開始以来続く新規参入のない寡占状態の弊害もあると言えます。
現状で申し上げられることは、BS、CSでのチャンネル多局化が進み、ネット配信も隆盛を極めている今NHKの公共放送としての存在意義は放送開始の時代に比べて大きく縮小しているということです。
確かに、災害や大事故発生時の24時間体制での継続的情報発信等の報道番組の社会的意義、Eテレ(旧NHK教育テレビ)における語学をはじめとした幅広い教育関連放送の有用性は、現在でも公共放送としてのNHKの存在意義を認め得る部分ではあろうとは思います。
しかしその一方で、ドラマやスポーツ中継や音楽番組やバラエティ番組など既に民放やネット配信が十分にその役割を果たしている分野に関しては、「民でできることは民に委ねる」という特殊法人を管轄する行政の原則に照らしても、国民負担を強いてまで公共放送が今の時代にあえて取り組む必要性はないと判断できるわけです。
分割民営化で受信料は月額300~400円!?
では、NHKはどのような改革を検討していくべきなのでしょうか。基本は、公共放送として必要な部分は残し、公共放送にそぐわなくなっている部分は民営化する、という分割民営化が肝要であると考えます。
具体的には先の分類で申し上げた、報道部分と教育部分についてのみ受信料を徴収しながら公共放送として存続させ、ドラマ、スポーツ、音楽、バラエティなどの番組制作および放映は民営化するということが、最も納得性が高い改革案であると考えます。
分割後の民営化NHKは、番組スポンサーを募る従来の民放キー局的な運営でも良いですし、あるいは番組ごと視聴者に有料販売するビジネスモデルでもいいでしょう。
これにより、NHKの地上波受信料月額1225円(口座振替)、衛星放送を加えた場合の同2170円は大幅に安くなると考えられます。報道および教育部分だけの地上波公共放送であれば、NHKにおける人件費、製作費等の比率から考えて少なく見積もっても受信料は今の4分の1程度、具体的には実額ベースで地上波受信料は月300~400円程度になるでしょう。
衛星放送は災害発生時等の緊急時以外はスクランブル放送にすれば、観たい人だけが上乗せの受信料を払う民放の有料チャンネルと同じ方式の運営で、何の問題もありません。
受信料徴収よりもNHKが目指して欲しい事は?
受信料の多寡が決して問題の核心ではありませんが、今受信料未納の人たちの多くからは、「公共放送の名のもとに、放送必然性の薄い番組を無理やり押し付けられて、ろくに観ない衛星放送まで含め年間約25000円も取られるのは納得がいかない」という金額を問題視する声が根強くあるのも事実です。
分割民営化によって受信料が一世帯あたり月300~400円程度になるならば、国民への報道・教育情報の提供を存在意義とする公共放送への均等負担として、納得性を得ることもできるのではないかと思うところです。
こうして考えてみると、NHKは映像メディア多極化という時代の変化、あるいは国民の生活様式の多様化を全く無視して、昭和な姿勢のままでTV設置届け出の義務化という動きを起こしているわけであり、税金逃れを取り締まる税務当局のような官僚的紋切り型管理はそぐわなくなっているのだということに、そろそろ気が付かなくてはいけないでしょう。
NHKがするべきは、TV設置届け出の義務化よりも前に、まずはあるべき公共放送の姿を改めて自問自答し、「民でできることは民に委ねる」を基本とした組織改革を断行して、21世紀に生きる国民から支持される公共放送に姿を変えることが優先であると考えます。