これは、アメリカのジョニー・バーネットというカントリーシンガーが書いた物語です。日本とは文化が違うアメリカ発の物語ですが、良さは私たちにも伝わってきます。
始まりはおばあさんの車の故障から…
ある冬の日の夕方、車に乗っていた男性が道路脇でひとり佇んでいる年配の女性を見かけました。女性は困っている様子で男性は女性の車の前に停車し、事情を聞いてみることにしました。どうやら女性の乗っている年代物のフォードの調子が悪いようでした。
男性は笑顔で女性に声を掛けましたが、女性は警戒していました。
車が止まってしまってから1時間、声を掛けてきたのは強面で薄汚れてた格好をしたこの男性だけでした。強盗されてしまう可能性だってある、そんな不安が脳裏をかすめたのでしょう。薄暗くなり始めた寒い冬の夕暮れ時、より不安が増してしまうのも無理はありません。男性には女性の心情がよく分かりました。
「おばあさん、大丈夫です。中の方が暖いから僕の車に乗って休んでいてください。あと、僕はブライアン・アンダーソンと言います」男性は言いました。
車が止まってしまった原因は、タイヤのパンクでした。しかし、高齢の女性一人ではタイヤの交換は困難な作業です。ブライアンは女性の車の下に入り、ジャッキを取り付ける場所を探し、早速作業にとりかかりました。
その後間もなくしてタイヤの交換が終わります。ブライアンの服はさらに汚れ、こぶしには擦り傷をつくっていました。
ブライアンがタイヤのボルトを締めていると、女性が窓をおろして彼に話し始めました。女性はセントルイスからの途中で、感謝しきれないとブライアンに伝えました。ブライアンは微笑んで車のトランクを閉めました。
女性はブライアンにいくら払えばいいか、と聞きました。どんな額でも払うつもりでした。しかし、ブライアンはお金のことなど全く考えていなかったのです。
彼にとってこれは仕事ではなかったからです。過去に多くの人に助けられたこともあり、困った人を見かけたら必ず助けるようにしてきました。ブライアンは女性に、そのお金はに誰か困っている人にあげて下さいと伝え、「私のことは、思い出してくれるだけで十分です」と加えました。
ブライアンは女性の車が去るのを待ってから家路につきました。その日は寒くて滅入るような日でしたが、彼は何だか良い気分でした。
あるカフェでの繋がり…
女性が数マイルさらに運転すると、そこには小さなカフェがありました。残りの距離を乗り切るためにはエネルギーが必要です。休憩も兼ねて女性は軽く食事をとることにしました。外にガソリンのポンプが2台設置された、廃れた感じのレストランで、とても繁盛はしているようには見えませんでした。
レストランに入ると、女性の濡れた髪に気づいたウエイトレスが綺麗なタオルを持ってきてくれました。丸一日立ちっぱなしで働いていても消えることのない、優しい笑顔を持ったウエイトレスでした。
女性はすぐに、そのウエイトレスの女性が妊娠していることに気づきます。8ヶ月くらいでしょうか。大きなお腹を抱えていれば感じるであろう疲れや体の痛みも、顔や態度に出すことありませんでした。女性は、何故彼女がこんなに人に優しく笑顔でいられるのかと考え、ふとブライアンのことを思い出しました。
食事を終えた女性は、代金を100ドル紙幣で支払いました。しかし、ウエイトレスの女性がお釣りを取りに行っている間に女性は店を後にしました。ウエイトレスの女性は、女性が座っていたテーブルに置かれたナプキンに何かが書かれていることに気づきます。そこに綴られたメッセージを読んだ彼女の目に、涙が溢れてきました。
「気持ちです。私もいつだったか、こうやって助けられたことがあります。もしお返しがしたかったら、この慈しみの連鎖を途切れさせないでください」
ナプキンの下には、さらに100ドル札4枚が残されていました。
女性はテーブルを片付け、他のお客さんに食事を出し、やがて1日を終えて家に帰りました。その晩、ベッドの中であのお金と女性からのメッセージについて考えました。女性はどうして私の家族がお金を必要としていることが分かったのだろうと。
彼女は横に寝ていた夫の額に軽くキスして囁きました。
「どうにかなるから大丈夫よ。愛してるわ、ブライアン・アンダーソン」